幕恋 『高杉晋作 第拾四話』
2009年12月15日 携帯アプリ今。
わたしの目の前には、静かに寝息を立てている晋作さんがいる。
そっと、その髪を撫でて……絶体絶命だと思った昨日を思った。
───あれから。
わたしは必死で走って、足をもつれさせて、転んで。
それでもなんとか無事に長州藩邸へと辿り付いた。
何度も言いつけを破ったのは悪かった、と思うけど。……徘徊もしておいた甲斐があったというものだ(苦笑)そう言えるだろう。
通り慣れない夜の道を、ちゃんと藩邸まで戻ってこれたのだから。
戻ったわたしに、桂さんは「よくがんばったね」と言って労い、すぐに救援を手配してくれた。薩摩藩邸からも大勢の救援の人たちが出て。
龍馬さんも無事で。武市さんも慎ちゃんも以蔵も。全員がちゃんと薩摩藩邸に保護されたって聞いたときには……本当に、ホッとした。
思わず、その場にしゃがみ込んでしまったほどに。
……でも。
わたしは視線を落として、眠りつづける晋作さんの顔を見つめた。
昨日も、急にあんなに咳き込んで。
「今日は……なかなか起きないな……」
呟いて外から吹き込む風に煽られて晋作さんの顔にかかった髪を、そっとはらう……。
その手が、温かな手に包まれて驚いた。
「晋作さん!……良かった。目、覚めて…」
握られた手を、しっかりと握り返す。
「おまえに……助けられちまったな」
幾分情けない表情でそう言った晋作さんに、わたしは微笑む。
……覚えているかな?あんな中。わたしの一世一代の告白だったんだけど。
助けたいと思っているのは、あなただけじゃないよ?
わたしも。───あなたを。
「どうしても、助けたかったの」
この世界に来て、右も左もわからないわたしにとっての……あなたは、全てだった。
優しくしてくれて、愛しんでくれて。生活する場所も、居場所も。すべてあなたが与えてくれた。
だからわたしは……少しでもあなたに恩返しがしたかったの。
大切な、大切な、あなたに。
「……あんまり、無茶はしてくれるな」
呟く晋作さんに、わたしはスパッと言い放つ。
「そうしたら、早く病気治して?」
言葉に身を震わせた晋作さんが、一瞬後に笑う。
「……お前は、病人にも厳しいな」
「うーん。じゃあ思いっきり病人扱いしちゃおうかな?」
「確かに病人だが、それはやめろ!!」
「ふふ。でしょ?だからわたしは、晋作さんを甘やかさないことにしてるの」
「是非そうしてくれ」
いつものような、会話。あんな大事があったとは思えないような、和やかな空気が流れて。
そんななかで、晋作さんが口を開いた。
「ま、こんな事もあったしな。後はいつ、お前を未来へ帰すかだ」
「え…?」
「何度も言わせるな。オレは、した約束は必ず守る!」
ああ。そういえば、そんな事言ってたっけ。
わたしを帰すのはオレ様だーーーって。
……。
でも、もう…。───わたしは。
「ん?」
「……晋作さん」
「何だ?」
もう、決めたんだ。ずっとずっと、揺れ続けていて。
でも、もう。当たり前の選択肢が選べなくなってしまったわたしの、想い。
「わたしが、もし。帰りたくないって、言ったら。ここに、置いてくれる?」
真っ直ぐ晋作さんの目を見て、問う。晋作さんが怪訝な顔をする。
「お前、何言ってるんだ」
「ずっと…ずっと考えていたの。前に大久保さんに聞かれて……。わたしの『本当に居たい場所』……それが、どこなのか」
多分、大久保さんはわかっていたんだろう。
この世界でフラフラしているわたしの意志が、そもそも元の世界に戻りたいという方向に向いていない事。
あの人は、ああ見えてとても人をよく見ていて。だからわたしにヒントをくれた。
わたしがどうしたいと思っているのか。自覚するきっかけを。
「わたしの、居たい場所は……晋作さんのところ」
温かくて、優しい。あなたの。
「ここ、なんだと思う」
言葉に晋作さんがわたしの名を呼ぶ。その声が、嬉しそうでもなければ迷惑そうでもなくて、ただ。ひたすら怖くて。だから、もう一度繰り返す。
「わたし、ここにいたい。晋作さんの傍に」
「駄目だっ!!」
強い、拒否の言葉。でも、わたしだって後には引けない。
「どうして?」
「ここはお前が居た平和な世界とは違う!昨夜のような危険な事も日常茶飯事だ!!」
「わ、わかってる!」
答えるわたしの前で、晋作さんが目を伏せた。
「今回は無事だったが、命の保証だってないんだ!!」
「それでも……」
わたしは晋作さんを見た。
「それでも、わたし、ここがいい」
「……!!」
言葉に晋作さんが顔を上げて、視線が合う。
けど、彼はそのままわたしに背を向けてしまう。
「これ以上…言う事はない……」
「晋作さん!」
「少し、1人にしてくれ……。お前も頭を冷やしてよく考えろ」
「…晋作さん」
呼びかけても、答えてくれない。
その背が、わたしを拒んでいるように見えて……ため息をついて立ち上がる。
晋作さんがわからない。
───こんなに近くに居るのに。
わたしは、1度だけ晋作さんを振り返って。あとは静かに部屋を後にした。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
晋作は部屋で1人、少女と……自身の未来に思いを馳せる。
きっとそれは、遠くない日になる。
病を抱える自分は、慣れぬこの世界に彼女をたった1人で置き去りにして先に……死ぬ。
それなのに。
「……ッ!!」
まだ力の入らない拳を、思い切り畳に振り下ろした。
「どうしてここに、留めておけるというんだっ!!」
しかも、武士として白刃に倒れるのならまだしも。病の床で死にゆく姿など……。
「晒せるワケが……なかろう…」
(ここに残ることは、あれの幸せではないのだ)
何度も。何度も、何度も。
自分に言い聞かせるように、晋作は胸の内で繰り返す……。
(ならばせめて、あいつが幸せに過ごせる場所に帰してやるのが…今のオレに出来るたった一つのことなんだ)
────それが、自分の幸福ではなくても。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
気付くとわたしは、無意識にあの神社にやってきていた。昨日あんな大立ち回り演じたくせに~~~~ッ!!!!このお馬鹿ちんがぁっ!!!!
「ねぇ……?わたし、どうしたらいいの?」
1人問うてみても、神社が答えをくれるハズもなく。
そこにただ、静かにあるのみで。
静かで。
あまりに静かで。
だんだん……イライラしてきた(怒)
「答えてくれたっていいじゃん!」
わたしは、足元の砂を蹴る。
「…勝手に連れてきて、無視って!そりゃないよ!!」
当然と言えば当然のことで、言葉だけが静かに響いて。
わたし…何してるんだろう…。
「晋作さん……」
どうしてこうなっちゃったんだろう…。
晋作さんはわたしを好きだと言ってくれて。わたしは……わたしも、同じ気持ちを抱えてて。
なのに、一緒に居ちゃダメっていうのは…どういうことなのかな…。
ぼんやりと、こんな時でもいつものように綺麗に晴れた空を見上げる。
「空、高いなぁ……」
その時、後ろに人の気配がして、咄嗟に振り向いた。
「おや」
そこにいたのは沖田さんで。瞬時に昨日の一件が思い出されて……身が凍る。
けど。
沖田さんはというと、昨日と同一人物なのかと疑うほどに優しく微笑んで「また、会ったね」と言った。
恐怖と言うか、警戒と言うか。
どちらにしても動けないわたしの横をスタスタと通り過ぎた沖田さんは、神社の石段に腰掛けてわたしを見上げ「お座りよ」と促してくる。
お座りよ…って。
アナタ、昨日わたしを脅して坂本さんの居場所を吐かせようとかした、あの人ですよね??
怪しむこちらの思いを汲み取ったか、沖田さんが苦笑する。
「昨日の今日で、何もしませんよ。……君に聞けそうなことは、もう全部わかっちゃったしね」
……。
…………正直ですこと。どう考えても言葉の後半が本音ですよね?
でも。
ここにいるのはわたしの知っている沖田さんで、少し安心した。
……そのまま(自棄になったわけじゃないけど)彼から少し距離をとって……石段に腰掛ける。
ふっと笑って、沖田さんが話し始めた。
「浮かない顔をしているのは、僕らのせい?」
「え?」
え?あ……どうだっけ??
昨日沖田さん達のことがなかったら晋作さんは……って、藩邸の中でも結局発作は起こしたよね…?
そんなことじゃない、わたしの……悩みは。
つい考えがそれてずっと押し黙っていると、少し寂しそうに沖田さんが呟いた。
「もう僕とは、話したくないかな?」
「あ!いえ!そうじゃないんです!!」
あわてて沖田さんに向き直る。
「そうじゃなくて!その、説明しづらくって!」
「説明?」
「はい」
「長い話なの?それとも、難しい?」
やっぱり優しい笑みを浮かべたままで、沖田さんがわたしに問う。
そう聞かれると……
「いや、長くもないし、難しくも……ないといえば、ないんですけど」
わたしの…よくわからない説明に沖田さんがきょとんとしている。が、すぐに可笑しそうに笑う。
「ははっ。一体どんな話なの?すごく、興味がわくな」
……。
「へ、変な子だって、思いませんか?」
「ああ。もう、十分思っているから、大丈夫だよ」
アナタ、さっきから本音がダダ漏れですけど、大丈夫ですか!!?
多分顔をしかめていたであろうわたしに、困ったような表情で沖田さんは続けた。
「ああ。変とは違うかな?不思議で、面白い娘だな。って思っているよ」
「それ…褒めてないですよね……」
ああ……っ。ちょっと落ち込んだ……。フォローにもなってないし!沖田さん!!
「そんなことはない!だって、僕は君の事をけっこう気に入っているんだから」
「はぁ……」
そう言ってにっこり笑う沖田さんからは、昨日の怖さとか、何も感じない。
───不思議な人だ。
思って見ていると、ふと思い出した。
前に労咳のことを相談した時。何時間も優しく話を聞いてくれた──あの時と同じ。今の沖田さん。
でも、今度この悩みを相談するには……最初ッから説明しなきゃいけない気がするけど……。未来から、来ましたーってヤツ。
……そんなの、まともに聞いてくれるのかな……(溜息)
とは、思いつつも。時間があり余り過ぎてて、探してくれる人ももういなくて、どこにも行き場のないわたしは……藁にもすがる思いで、口を開いた。
「そこに、神社。ありますよね?」
沖田さんはどれどれ?と振り返ってから、わたしを見た。
「うん、あるね」
「わたし、あそこから来たんです」
「……」
あ。固まった。
いやー。なんだかこの感覚懐かしいなぁ……。初めてここに来た頃を思いだす。
そうして。
ポカンとしている沖田さんに、わたしがここに来た時のことや、藩邸で暮らすようになったこと。───今。わたしが晋作さんに元の世界へ戻るように言われている事。
1つずつ、ゆっくり説明する。
沖田さんは、いつかのように優しく頷きながら。真面目に聞いてくれた。
「そうかい…」
ひとしきり吐き出したわたしは、うつむいた。
「何で……晋作さんが、あんなに反対するのか……分からなくて」
続けようとすると、喉が震える。続く言葉が、怖い。……けど、誰かにそんなことないよって、言って欲しくて。
「もしかして……嫌われたんじゃ、ないかって……」
「高杉さんが労咳なのは、間違いないんだよね?」
そう、うつむいたままのわたしにしばらく経ってからかけられた沖田さんの言葉は。静かで…そしていきなりだった。
「あ、はい。……最近は、咳が出る日も、増えてきて……」
「そうか……」
沖田さんが、表情を曇らせる。けど、すぐにこっちを向いて、優しく言ってくれる。
「大丈夫。君は好かれている」
「え?」
「それも、相当にね」
望んでいた答えをわたしに返してくれたその人は。座っている膝を抱えなおして、にっこり笑う。
「でも…」
「君を帰そうとするのは、君を1人にさせたくないからだと思う」
……1人に……?
「死病に侵されている自分が、君を残して逝くことが嫌なんだろう。……同じ別れでも、生別と死別…これはとても大きな違いだ。そうだろう?」
「……はい」
「君は、素敵な人に愛されているね」
「…………はい…」
素敵な人、だと。
敵であるこの人に、そう言ってもらえて。わたしの心は嬉しさであったかくなる。
「僕だったら、そんなに好きな相手、殺しちゃうけどなぁ」
……。
…………。
………………!?
自分の耳を疑いたくなるような衝撃発言を、頬を染めて放つ沖田さん。
い……い、い、い、今、なんて!?
「だって、誰にも渡したくないから」あぁ。そう言う事か。。。激しいな~~~愛情(爆)
「……」
「僕が死んだ後に、誰かがその子を愛すなんて……絶対に嫌だ」
ちょっと、過激だけど。きっとこれも、本気の好きの形なのかもしれない。
……わたしには、理解できないけど。
でも。
ひと、それぞれに、想い方があって。
沖田さんには沖田さんの想い方……。
わたしにはわたしの想い方。
そして……晋作さんにも。
そう。多分、想い方は自由なんだ。
「君もね。もっともっと、自分の本当の気持ちをぶつけてごらん。どんな言い方でもいいんだ。君らしく、ね?」
わたし……らしく。
「さ。そろそろお帰り。藩邸の近くまで送るよ」
立ち上がり、振り返った沖田さんはわたしに手を差し出す。
昨日の敵に…手を差し出されて、戸惑いからその手をとれないわたしに、彼はにっこり笑った。
───あの、優しい笑顔で。
「もちろん、こっそり、ね」
くすっと笑ったわたしが沖田さんの手をとると、彼はわたしを立たせて続ける。
「そして、彼の所に無事について、ちゃんと気持ちを伝えるんだよ?」
その言葉は、とても優しくて。
さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように、わたしに力を与えてくれた。
沖田さんに送られて、藩邸に戻ると。わたしはさっそく晋作さんの姿を探す。
「あ、いた!」
縁側に座って、ぼーっとしている晋作さん。
そっと近寄って柱の影から顔を覗かせてみると、ちょうどこちらを向いた晋作さんと目が合った。
一瞬、怖くて尻込みしそうになるけれど。
ふっと笑った晋作さんが、おいでおいでと手招きしてくれて。
わたしはゆっくり彼に近づき……隣にストンと腰を下ろす。
……そうして。
2人でただ、一緒に座っている。
いつかのように。お互いに無言だったけど……わたしは幸せな気分だった。
ずっと、こうしていたいな。
ずっと。……ずっと。
「ね、晋作さん」
「ん?」
晋作さんがわたしを見たのを感じる。…そして、続けた。
「わたし、帰らない」
「お前、まだそんな……!!」
声を荒げる晋作さんを遮って、わたしは言った。
「自分が、病気だから駄目なの?」
「!」
「晋作さんが何と言っても、わたしはここに居る」
「だから駄目だと何度言えば……!!」
「晋作さん!」
わたしは立ち上がって、晋作さんを真正面から見詰める。
「わたしは、晋作さんが惚れたって言った女だよっ!自分のやりたいようにやるのは、きっと晋作さん譲りなんだからっ」
晋作さんが驚いたような表情でわたしを見上げる。
そう……誰でもない、あなたが言ったの。
わたしが…わたしのままでいいと思わせて。そうやって甘やかして、それでもそんなわたしを好きだと言った。
わたしは、わたしがやりたいように生きていいと、あなたがわたしに思わせたの。
「晋作さんと同じで、わがまま言ったら絶対あきらめないっ!わたし、晋作さんの傍にいるっ」
きょとん、とした表情の晋作さんが、やがて「オレ……譲りって…」と呟き。
突然大笑いし始める。
これが、こっちが思わず心配になるほどのもので。
「し、晋作さん、そんなに笑ったら身体に悪いよっ!」
「お……お前、自分で笑わせておいて、なんだそれは!」
え……ええええッ!?笑わせるつもりなんて毛頭ない、超本気発言だったんですけどッ!!!
「一体何が、おかしかったの?」
「オレ自身がだ」
「……晋作さんが……?」
「ああ、オレは阿呆だったなぁと思ったら、笑いたくなった」
「あ、あほう???」
どどど…どうしたの!?晋作さんはどっちかって言うとオレ様で、自分の事を謙遜するタイプでは……最近はするとか言ってたけどでも、どっちかって言うとしなくて自信満々なイメージだよ!?
「ああ、阿呆で大馬鹿だ。お前は、オレが好いた女だったんだものなぁ……」
「晋作さん…」
「お前は本当に大した女だ!」
言って笑う晋作さんは、本当に嬉しそうで。……これって、褒められたんだよね?
嬉しそうな晋作さんを見て、わたしも、本当に嬉しかった。
翌朝。
目覚めると藩邸は随分と騒がしかった。
どうしたのかと思って廊下に出ると、桂さんに出くわした。
「おはよう」
「何かあったんですか?みんなバタバタして」
わたしが問うと、桂さんは不思議そうな顔をする。
「おや?晋作から、何も聞いてないのかい?」
「……いえ、何も」
「そうか……」
眉をひそめて困ったような表情の桂さんにどうしたのか聞いてみると。
「先日、薩摩との同盟が結ばれたのは知っているね?」
「はい」
「その関係で、わたしも含めた何人かは長州へ戻る事になったんだよ」
え…?
……まさか。
「晋作、さんも?」
「ええ」
そんな……。何も、聞いてない……。
表情を変えたわたしに、当然気付いたろう。桂さんは言う。
「…晋作は、まだ部屋にいるから。話しておいで」
わたしは、とにかく、晋作さんの部屋に向かった。
「晋作さん?」
晋作さんの部屋に入って、躊躇いがちに名前を呼ぶと「どうした!」と軽快に返事が返ってくる。
「晋作さん、長州に帰るの?」
「ああ!」
そんな、笑顔で。わたしは……急に悲しくなってきた。
「やっぱり、置いて行かれちゃうんだ…」
涙が出そうになるのを必死で堪える。
「晋作さんと…一緒に居たいってわがまま……叶えたかったなぁ……」
「っ!」
「…でもっ……困らせるのも嫌…だからっ…ちゃんと、お見送りするよ」
唇をかんで、晋作さんを見上げる。
そんなわたしを見て、晋作さんは困り顔になった、が。
「おいこら!」
晋作さんはわたしの頭をグーでゴンッと叩く。
「いたっ!」
「全く!勝手に1人で話を進めるな!」
「え?」
気を抜くと、涙がぼろぼろ溢れ出して。でも、涙はそのままに晋作さんを見つめる。
そんなわたしに、晋作さんが大きな手を差し出した。
「お前もだ」
「え?」
出された手に、戸惑うわたし。晋作さんは、目の前で優しく笑う。
「オレ様から、離れないんだろう?」
「う、うん」
「オレの事を、好きなんだろう?」
「うん」
するっと自然に出た答えに、恥ずかしいとか思う間もなく晋作さんが嬉しそうに、照れくさそうに笑って言う。
「オレもお前が好きだ。それにお前は……オレの女なんだろう?」
…晋作さん!
これは、認めてくれたって思って、いいんだよね?晋作さんも、わたしと一緒に居たいって思ってくれてるって、思っていいんだよね?
自然ににやけてしまう顔を、抑えずに答える。
「うんっ!」
「じゃあ」
ひときわ、ぐっとわたしの方へ手を差し出して晋作さんが笑う。
「一緒に来い!」
わたしは、その笑顔を真っ直ぐに見据えて、しっかりと答える…!
「……はいっ!!」
そうして、差し出された手をぎゅっと握り締めた…。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
ハイ~。そんなわけで拾四話でしたぁ~。
やっぱり、幕末だから……ですかね?糖度がここに来て下がり気味(笑)
晋作さん、主人公ちゃんにアタックしてる間は甘かったのにぃ~~~~!!!後半になると、甘い程度が当たり前になってもっと…もっと……とか思っちゃいますネ☆
そろそろラストかなぁ…?とか思ってるんですけど、どうでしょうか。
今回は、沖田さんがカッコよくて(苦笑)
なんですか、好きな相手は殺しちゃうって……!!!ゾクゾクする(爆)
僕が死んだ後に、誰かがその子を愛すのが嫌……とか言ってますけど。本当は逆なのかも知れないですね。
その子が、違う誰かを愛するのが、嫌と。……そんな気がします。
確か、沖田総司も労咳患ってたような気がするんで……リアルに考えちゃうんだろうなぁと思うと、切ない、かも???
さてさて、長州に戻る晋作さん。
2人がどうなるのか、期待…ですかね。甘いラストになりますように!!!
今日の選択肢
どうしても助けたかったの(花)
何がおかしかったの?(花)
わたしの目の前には、静かに寝息を立てている晋作さんがいる。
そっと、その髪を撫でて……絶体絶命だと思った昨日を思った。
───あれから。
わたしは必死で走って、足をもつれさせて、転んで。
それでもなんとか無事に長州藩邸へと辿り付いた。
何度も言いつけを破ったのは悪かった、と思うけど。……徘徊もしておいた甲斐があったというものだ(苦笑)そう言えるだろう。
通り慣れない夜の道を、ちゃんと藩邸まで戻ってこれたのだから。
戻ったわたしに、桂さんは「よくがんばったね」と言って労い、すぐに救援を手配してくれた。薩摩藩邸からも大勢の救援の人たちが出て。
龍馬さんも無事で。武市さんも慎ちゃんも以蔵も。全員がちゃんと薩摩藩邸に保護されたって聞いたときには……本当に、ホッとした。
思わず、その場にしゃがみ込んでしまったほどに。
……でも。
わたしは視線を落として、眠りつづける晋作さんの顔を見つめた。
昨日も、急にあんなに咳き込んで。
「今日は……なかなか起きないな……」
呟いて外から吹き込む風に煽られて晋作さんの顔にかかった髪を、そっとはらう……。
その手が、温かな手に包まれて驚いた。
「晋作さん!……良かった。目、覚めて…」
握られた手を、しっかりと握り返す。
「おまえに……助けられちまったな」
幾分情けない表情でそう言った晋作さんに、わたしは微笑む。
……覚えているかな?あんな中。わたしの一世一代の告白だったんだけど。
助けたいと思っているのは、あなただけじゃないよ?
わたしも。───あなたを。
「どうしても、助けたかったの」
この世界に来て、右も左もわからないわたしにとっての……あなたは、全てだった。
優しくしてくれて、愛しんでくれて。生活する場所も、居場所も。すべてあなたが与えてくれた。
だからわたしは……少しでもあなたに恩返しがしたかったの。
大切な、大切な、あなたに。
「……あんまり、無茶はしてくれるな」
呟く晋作さんに、わたしはスパッと言い放つ。
「そうしたら、早く病気治して?」
言葉に身を震わせた晋作さんが、一瞬後に笑う。
「……お前は、病人にも厳しいな」
「うーん。じゃあ思いっきり病人扱いしちゃおうかな?」
「確かに病人だが、それはやめろ!!」
「ふふ。でしょ?だからわたしは、晋作さんを甘やかさないことにしてるの」
「是非そうしてくれ」
いつものような、会話。あんな大事があったとは思えないような、和やかな空気が流れて。
そんななかで、晋作さんが口を開いた。
「ま、こんな事もあったしな。後はいつ、お前を未来へ帰すかだ」
「え…?」
「何度も言わせるな。オレは、した約束は必ず守る!」
ああ。そういえば、そんな事言ってたっけ。
わたしを帰すのはオレ様だーーーって。
……。
でも、もう…。───わたしは。
「ん?」
「……晋作さん」
「何だ?」
もう、決めたんだ。ずっとずっと、揺れ続けていて。
でも、もう。当たり前の選択肢が選べなくなってしまったわたしの、想い。
「わたしが、もし。帰りたくないって、言ったら。ここに、置いてくれる?」
真っ直ぐ晋作さんの目を見て、問う。晋作さんが怪訝な顔をする。
「お前、何言ってるんだ」
「ずっと…ずっと考えていたの。前に大久保さんに聞かれて……。わたしの『本当に居たい場所』……それが、どこなのか」
多分、大久保さんはわかっていたんだろう。
この世界でフラフラしているわたしの意志が、そもそも元の世界に戻りたいという方向に向いていない事。
あの人は、ああ見えてとても人をよく見ていて。だからわたしにヒントをくれた。
わたしがどうしたいと思っているのか。自覚するきっかけを。
「わたしの、居たい場所は……晋作さんのところ」
温かくて、優しい。あなたの。
「ここ、なんだと思う」
言葉に晋作さんがわたしの名を呼ぶ。その声が、嬉しそうでもなければ迷惑そうでもなくて、ただ。ひたすら怖くて。だから、もう一度繰り返す。
「わたし、ここにいたい。晋作さんの傍に」
「駄目だっ!!」
強い、拒否の言葉。でも、わたしだって後には引けない。
「どうして?」
「ここはお前が居た平和な世界とは違う!昨夜のような危険な事も日常茶飯事だ!!」
「わ、わかってる!」
答えるわたしの前で、晋作さんが目を伏せた。
「今回は無事だったが、命の保証だってないんだ!!」
「それでも……」
わたしは晋作さんを見た。
「それでも、わたし、ここがいい」
「……!!」
言葉に晋作さんが顔を上げて、視線が合う。
けど、彼はそのままわたしに背を向けてしまう。
「これ以上…言う事はない……」
「晋作さん!」
「少し、1人にしてくれ……。お前も頭を冷やしてよく考えろ」
「…晋作さん」
呼びかけても、答えてくれない。
その背が、わたしを拒んでいるように見えて……ため息をついて立ち上がる。
晋作さんがわからない。
───こんなに近くに居るのに。
わたしは、1度だけ晋作さんを振り返って。あとは静かに部屋を後にした。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
晋作は部屋で1人、少女と……自身の未来に思いを馳せる。
きっとそれは、遠くない日になる。
病を抱える自分は、慣れぬこの世界に彼女をたった1人で置き去りにして先に……死ぬ。
それなのに。
「……ッ!!」
まだ力の入らない拳を、思い切り畳に振り下ろした。
「どうしてここに、留めておけるというんだっ!!」
しかも、武士として白刃に倒れるのならまだしも。病の床で死にゆく姿など……。
「晒せるワケが……なかろう…」
(ここに残ることは、あれの幸せではないのだ)
何度も。何度も、何度も。
自分に言い聞かせるように、晋作は胸の内で繰り返す……。
(ならばせめて、あいつが幸せに過ごせる場所に帰してやるのが…今のオレに出来るたった一つのことなんだ)
────それが、自分の幸福ではなくても。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
気付くとわたしは、無意識にあの神社にやってきていた。昨日あんな大立ち回り演じたくせに~~~~ッ!!!!このお馬鹿ちんがぁっ!!!!
「ねぇ……?わたし、どうしたらいいの?」
1人問うてみても、神社が答えをくれるハズもなく。
そこにただ、静かにあるのみで。
静かで。
あまりに静かで。
だんだん……イライラしてきた(怒)
「答えてくれたっていいじゃん!」
わたしは、足元の砂を蹴る。
「…勝手に連れてきて、無視って!そりゃないよ!!」
当然と言えば当然のことで、言葉だけが静かに響いて。
わたし…何してるんだろう…。
「晋作さん……」
どうしてこうなっちゃったんだろう…。
晋作さんはわたしを好きだと言ってくれて。わたしは……わたしも、同じ気持ちを抱えてて。
なのに、一緒に居ちゃダメっていうのは…どういうことなのかな…。
ぼんやりと、こんな時でもいつものように綺麗に晴れた空を見上げる。
「空、高いなぁ……」
その時、後ろに人の気配がして、咄嗟に振り向いた。
「おや」
そこにいたのは沖田さんで。瞬時に昨日の一件が思い出されて……身が凍る。
けど。
沖田さんはというと、昨日と同一人物なのかと疑うほどに優しく微笑んで「また、会ったね」と言った。
恐怖と言うか、警戒と言うか。
どちらにしても動けないわたしの横をスタスタと通り過ぎた沖田さんは、神社の石段に腰掛けてわたしを見上げ「お座りよ」と促してくる。
お座りよ…って。
アナタ、昨日わたしを脅して坂本さんの居場所を吐かせようとかした、あの人ですよね??
怪しむこちらの思いを汲み取ったか、沖田さんが苦笑する。
「昨日の今日で、何もしませんよ。……君に聞けそうなことは、もう全部わかっちゃったしね」
……。
…………正直ですこと。どう考えても言葉の後半が本音ですよね?
でも。
ここにいるのはわたしの知っている沖田さんで、少し安心した。
……そのまま(自棄になったわけじゃないけど)彼から少し距離をとって……石段に腰掛ける。
ふっと笑って、沖田さんが話し始めた。
「浮かない顔をしているのは、僕らのせい?」
「え?」
え?あ……どうだっけ??
昨日沖田さん達のことがなかったら晋作さんは……って、藩邸の中でも結局発作は起こしたよね…?
そんなことじゃない、わたしの……悩みは。
つい考えがそれてずっと押し黙っていると、少し寂しそうに沖田さんが呟いた。
「もう僕とは、話したくないかな?」
「あ!いえ!そうじゃないんです!!」
あわてて沖田さんに向き直る。
「そうじゃなくて!その、説明しづらくって!」
「説明?」
「はい」
「長い話なの?それとも、難しい?」
やっぱり優しい笑みを浮かべたままで、沖田さんがわたしに問う。
そう聞かれると……
「いや、長くもないし、難しくも……ないといえば、ないんですけど」
わたしの…よくわからない説明に沖田さんがきょとんとしている。が、すぐに可笑しそうに笑う。
「ははっ。一体どんな話なの?すごく、興味がわくな」
……。
「へ、変な子だって、思いませんか?」
「ああ。もう、十分思っているから、大丈夫だよ」
アナタ、さっきから本音がダダ漏れですけど、大丈夫ですか!!?
多分顔をしかめていたであろうわたしに、困ったような表情で沖田さんは続けた。
「ああ。変とは違うかな?不思議で、面白い娘だな。って思っているよ」
「それ…褒めてないですよね……」
ああ……っ。ちょっと落ち込んだ……。フォローにもなってないし!沖田さん!!
「そんなことはない!だって、僕は君の事をけっこう気に入っているんだから」
「はぁ……」
そう言ってにっこり笑う沖田さんからは、昨日の怖さとか、何も感じない。
───不思議な人だ。
思って見ていると、ふと思い出した。
前に労咳のことを相談した時。何時間も優しく話を聞いてくれた──あの時と同じ。今の沖田さん。
でも、今度この悩みを相談するには……最初ッから説明しなきゃいけない気がするけど……。未来から、来ましたーってヤツ。
……そんなの、まともに聞いてくれるのかな……(溜息)
とは、思いつつも。時間があり余り過ぎてて、探してくれる人ももういなくて、どこにも行き場のないわたしは……藁にもすがる思いで、口を開いた。
「そこに、神社。ありますよね?」
沖田さんはどれどれ?と振り返ってから、わたしを見た。
「うん、あるね」
「わたし、あそこから来たんです」
「……」
あ。固まった。
いやー。なんだかこの感覚懐かしいなぁ……。初めてここに来た頃を思いだす。
そうして。
ポカンとしている沖田さんに、わたしがここに来た時のことや、藩邸で暮らすようになったこと。───今。わたしが晋作さんに元の世界へ戻るように言われている事。
1つずつ、ゆっくり説明する。
沖田さんは、いつかのように優しく頷きながら。真面目に聞いてくれた。
「そうかい…」
ひとしきり吐き出したわたしは、うつむいた。
「何で……晋作さんが、あんなに反対するのか……分からなくて」
続けようとすると、喉が震える。続く言葉が、怖い。……けど、誰かにそんなことないよって、言って欲しくて。
「もしかして……嫌われたんじゃ、ないかって……」
「高杉さんが労咳なのは、間違いないんだよね?」
そう、うつむいたままのわたしにしばらく経ってからかけられた沖田さんの言葉は。静かで…そしていきなりだった。
「あ、はい。……最近は、咳が出る日も、増えてきて……」
「そうか……」
沖田さんが、表情を曇らせる。けど、すぐにこっちを向いて、優しく言ってくれる。
「大丈夫。君は好かれている」
「え?」
「それも、相当にね」
望んでいた答えをわたしに返してくれたその人は。座っている膝を抱えなおして、にっこり笑う。
「でも…」
「君を帰そうとするのは、君を1人にさせたくないからだと思う」
……1人に……?
「死病に侵されている自分が、君を残して逝くことが嫌なんだろう。……同じ別れでも、生別と死別…これはとても大きな違いだ。そうだろう?」
「……はい」
「君は、素敵な人に愛されているね」
「…………はい…」
素敵な人、だと。
敵であるこの人に、そう言ってもらえて。わたしの心は嬉しさであったかくなる。
「僕だったら、そんなに好きな相手、殺しちゃうけどなぁ」
……。
…………。
………………!?
自分の耳を疑いたくなるような衝撃発言を、頬を染めて放つ沖田さん。
い……い、い、い、今、なんて!?
「だって、誰にも渡したくないから」あぁ。そう言う事か。。。激しいな~~~愛情(爆)
「……」
「僕が死んだ後に、誰かがその子を愛すなんて……絶対に嫌だ」
ちょっと、過激だけど。きっとこれも、本気の好きの形なのかもしれない。
……わたしには、理解できないけど。
でも。
ひと、それぞれに、想い方があって。
沖田さんには沖田さんの想い方……。
わたしにはわたしの想い方。
そして……晋作さんにも。
そう。多分、想い方は自由なんだ。
「君もね。もっともっと、自分の本当の気持ちをぶつけてごらん。どんな言い方でもいいんだ。君らしく、ね?」
わたし……らしく。
「さ。そろそろお帰り。藩邸の近くまで送るよ」
立ち上がり、振り返った沖田さんはわたしに手を差し出す。
昨日の敵に…手を差し出されて、戸惑いからその手をとれないわたしに、彼はにっこり笑った。
───あの、優しい笑顔で。
「もちろん、こっそり、ね」
くすっと笑ったわたしが沖田さんの手をとると、彼はわたしを立たせて続ける。
「そして、彼の所に無事について、ちゃんと気持ちを伝えるんだよ?」
その言葉は、とても優しくて。
さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように、わたしに力を与えてくれた。
沖田さんに送られて、藩邸に戻ると。わたしはさっそく晋作さんの姿を探す。
「あ、いた!」
縁側に座って、ぼーっとしている晋作さん。
そっと近寄って柱の影から顔を覗かせてみると、ちょうどこちらを向いた晋作さんと目が合った。
一瞬、怖くて尻込みしそうになるけれど。
ふっと笑った晋作さんが、おいでおいでと手招きしてくれて。
わたしはゆっくり彼に近づき……隣にストンと腰を下ろす。
……そうして。
2人でただ、一緒に座っている。
いつかのように。お互いに無言だったけど……わたしは幸せな気分だった。
ずっと、こうしていたいな。
ずっと。……ずっと。
「ね、晋作さん」
「ん?」
晋作さんがわたしを見たのを感じる。…そして、続けた。
「わたし、帰らない」
「お前、まだそんな……!!」
声を荒げる晋作さんを遮って、わたしは言った。
「自分が、病気だから駄目なの?」
「!」
「晋作さんが何と言っても、わたしはここに居る」
「だから駄目だと何度言えば……!!」
「晋作さん!」
わたしは立ち上がって、晋作さんを真正面から見詰める。
「わたしは、晋作さんが惚れたって言った女だよっ!自分のやりたいようにやるのは、きっと晋作さん譲りなんだからっ」
晋作さんが驚いたような表情でわたしを見上げる。
そう……誰でもない、あなたが言ったの。
わたしが…わたしのままでいいと思わせて。そうやって甘やかして、それでもそんなわたしを好きだと言った。
わたしは、わたしがやりたいように生きていいと、あなたがわたしに思わせたの。
「晋作さんと同じで、わがまま言ったら絶対あきらめないっ!わたし、晋作さんの傍にいるっ」
きょとん、とした表情の晋作さんが、やがて「オレ……譲りって…」と呟き。
突然大笑いし始める。
これが、こっちが思わず心配になるほどのもので。
「し、晋作さん、そんなに笑ったら身体に悪いよっ!」
「お……お前、自分で笑わせておいて、なんだそれは!」
え……ええええッ!?笑わせるつもりなんて毛頭ない、超本気発言だったんですけどッ!!!
「一体何が、おかしかったの?」
「オレ自身がだ」
「……晋作さんが……?」
「ああ、オレは阿呆だったなぁと思ったら、笑いたくなった」
「あ、あほう???」
どどど…どうしたの!?晋作さんはどっちかって言うとオレ様で、自分の事を謙遜するタイプでは……最近はするとか言ってたけどでも、どっちかって言うとしなくて自信満々なイメージだよ!?
「ああ、阿呆で大馬鹿だ。お前は、オレが好いた女だったんだものなぁ……」
「晋作さん…」
「お前は本当に大した女だ!」
言って笑う晋作さんは、本当に嬉しそうで。……これって、褒められたんだよね?
嬉しそうな晋作さんを見て、わたしも、本当に嬉しかった。
翌朝。
目覚めると藩邸は随分と騒がしかった。
どうしたのかと思って廊下に出ると、桂さんに出くわした。
「おはよう」
「何かあったんですか?みんなバタバタして」
わたしが問うと、桂さんは不思議そうな顔をする。
「おや?晋作から、何も聞いてないのかい?」
「……いえ、何も」
「そうか……」
眉をひそめて困ったような表情の桂さんにどうしたのか聞いてみると。
「先日、薩摩との同盟が結ばれたのは知っているね?」
「はい」
「その関係で、わたしも含めた何人かは長州へ戻る事になったんだよ」
え…?
……まさか。
「晋作、さんも?」
「ええ」
そんな……。何も、聞いてない……。
表情を変えたわたしに、当然気付いたろう。桂さんは言う。
「…晋作は、まだ部屋にいるから。話しておいで」
わたしは、とにかく、晋作さんの部屋に向かった。
「晋作さん?」
晋作さんの部屋に入って、躊躇いがちに名前を呼ぶと「どうした!」と軽快に返事が返ってくる。
「晋作さん、長州に帰るの?」
「ああ!」
そんな、笑顔で。わたしは……急に悲しくなってきた。
「やっぱり、置いて行かれちゃうんだ…」
涙が出そうになるのを必死で堪える。
「晋作さんと…一緒に居たいってわがまま……叶えたかったなぁ……」
「っ!」
「…でもっ……困らせるのも嫌…だからっ…ちゃんと、お見送りするよ」
唇をかんで、晋作さんを見上げる。
そんなわたしを見て、晋作さんは困り顔になった、が。
「おいこら!」
晋作さんはわたしの頭をグーでゴンッと叩く。
「いたっ!」
「全く!勝手に1人で話を進めるな!」
「え?」
気を抜くと、涙がぼろぼろ溢れ出して。でも、涙はそのままに晋作さんを見つめる。
そんなわたしに、晋作さんが大きな手を差し出した。
「お前もだ」
「え?」
出された手に、戸惑うわたし。晋作さんは、目の前で優しく笑う。
「オレ様から、離れないんだろう?」
「う、うん」
「オレの事を、好きなんだろう?」
「うん」
するっと自然に出た答えに、恥ずかしいとか思う間もなく晋作さんが嬉しそうに、照れくさそうに笑って言う。
「オレもお前が好きだ。それにお前は……オレの女なんだろう?」
…晋作さん!
これは、認めてくれたって思って、いいんだよね?晋作さんも、わたしと一緒に居たいって思ってくれてるって、思っていいんだよね?
自然ににやけてしまう顔を、抑えずに答える。
「うんっ!」
「じゃあ」
ひときわ、ぐっとわたしの方へ手を差し出して晋作さんが笑う。
「一緒に来い!」
わたしは、その笑顔を真っ直ぐに見据えて、しっかりと答える…!
「……はいっ!!」
そうして、差し出された手をぎゅっと握り締めた…。
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ハイ~。そんなわけで拾四話でしたぁ~。
やっぱり、幕末だから……ですかね?糖度がここに来て下がり気味(笑)
晋作さん、主人公ちゃんにアタックしてる間は甘かったのにぃ~~~~!!!後半になると、甘い程度が当たり前になってもっと…もっと……とか思っちゃいますネ☆
そろそろラストかなぁ…?とか思ってるんですけど、どうでしょうか。
今回は、沖田さんがカッコよくて(苦笑)
なんですか、好きな相手は殺しちゃうって……!!!ゾクゾクする(爆)
僕が死んだ後に、誰かがその子を愛すのが嫌……とか言ってますけど。本当は逆なのかも知れないですね。
その子が、違う誰かを愛するのが、嫌と。……そんな気がします。
確か、沖田総司も労咳患ってたような気がするんで……リアルに考えちゃうんだろうなぁと思うと、切ない、かも???
さてさて、長州に戻る晋作さん。
2人がどうなるのか、期待…ですかね。甘いラストになりますように!!!
今日の選択肢
どうしても助けたかったの(花)
何がおかしかったの?(花)
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