「ほら、ぐずぐずするな!行くぞっ!」
「晋作さんってば、ちょっと待って」
「何やってんだ、早くしろよー!」
晋作さんは、さっきの宣言通りわたしを早く外に連れ出したいようで、まるで駄々っ子。
……こういう、子供っぽいところは相変わらずなのに。なんだかどこか違うんだよなぁ…。
そんなことを思っていると、無意識に晋作さんを見つめていたらしい。
「ん?どうした?」
目敏く気付いて晋作さんがこっちを向き……てか、どうしよう。なんて答えよう!?
「あのー…えーと、ちょっと見てただけ」
しどろもどろのわたしの答えを聞いて、晋作さんはクスリと笑う。
「なんだ、どうせ見るんなら……」
言いながらずいっと顔を近づける。
「どうだ?この方がよく見えるだろう?」
「う、うん」
もうあと少しで、お互いの鼻先がつきそうな距離。晋作さんは優しく笑うと、続ける。
「それにオレも、この方がお前の顔がよく見えるしな」
わたしは、恥ずかしくて逃げようと試みるけど正面から晋作さんが両腕を掴んでいるので、なんだかジタバタと身をよじることくらいしか出来ない。
「わ、わかったから、離して?ね?」
どうすることも出来なくて、真っ赤になったままうつむき、そう訴える。
あぁぁ…声も若干上ずってて恥ずかしさ倍増だぁ…!!
「ダーメーだ!」
「い、いじわるっ」
睨むようにして顔を上げると、そこにあったのは真剣な眼差しの晋作さんの顔。
「逃げるな……オレの姿を、その目にちゃんと焼き付けておけ」
空気が止まる。まっすぐな晋作さんの目から視線がそらせない。痛いくらいに本気を感じて、わたし達は見つめあう。
そんなに長くなかったんだろうと思うけど、その瞬間を数分にも感じた。
「……う」
「なーんてな!ほら、行くぞ!」
晋作さんがくるりと後ろを向くと、先に藩邸の外に出る。
わたしはその背を追いかけながら、自分の胸がドキドキするのを感じていた。
本当に晋作さん…どうしちゃったんだろう……。
それに、どうしてわたし、こんなに……。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

……どうしてこんなにも。愛しいもんなんだ。こいつは。
通りを2人で歩きながら、ふと晋作は思った。
自分でもさっぱりわからない。どうしてこんなに愛しく思うのか、恋うのか。
こんな気持ちは初めてで。
だから正直自分の想いでさえ持て余し気味だ。この、高杉晋作が。
……こうなってみると、偶然の流れとは言え労咳のことを話してしまったのは良かったと今は思う。隠し事なんて、無い方がいいのは明らかだから。
隠し事がないから、弱みも甘えも見せられる。かっこ悪いところだって見せられた。
あいつは、ずっと傍にいてくれた……。

きっと、あと少しで彼女を帰らせることになるだろう。根拠はないが、こういう変な勘と言うのは意外とよく当たるものなのだ。
ならば…それまでに。あいつの中に出来る限りオレを…………残しておきたい。
いつか離れてしまっても、覚えていてもらえるように。

こんな浅はかなオレを、お前は笑うだろうか……。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

通りに出て、しばらく歩いていくと急に立ち止まった晋作さんの背中にぶつかる。
「ん?どうした?」
「どうしたって…だって、急に立ち止まるから…!」
鼻を押さえてそう訴えると、晋作さんは笑いながら「悪かった」と謝って続けた。
「折角共に居るんだから、もっと楽しい時間をと思ってな」
「えーと?それは……どういうこと?」
「つまりこういうことだ」
晋作さんがツツツっと後ろに下がってくると、スッとわたしの肩を抱く。
「し、晋作さん!」
「ほら、こうしていれば、お前の姿をずっと見ながら歩ける!」
言って笑うその笑顔が本当に嬉しそうで、わたしは赤くなりつつも、小さく頷いた。
「こら、うつむくな!折角こうしているのに、お前の顔が見えん!」
「だ、だって、仕方ないでしょ!」
わたしは真っ赤になってうつむいたままで叫んだ。
「なんだよ、何がだよ!」
晋作さんがそう言ってわたしの顔を覗き込めば、少し顔を上げたわたしと、パチリと目が合った。
「…………」
あれ……?晋作さん、何も言わない……。
「晋作……さん?」
あまりの反応のなさに声をかければ、晋作さんはわたしの肩を抱いたまま、空をあおいで笑った。
なんでそんな反応なのかまったく理解できずに思わず顔を上げて聞いてしまうわたし。
「だって、なぁ……。そんなに真っ赤な顔して上目遣いで見られたら、もう全部どうでもいいと思っちまったんだ」
「ど……どうでもいいって……」
どうでもいいって笑われるって……。わたしって……。
凹むわたしを、晋作さんが呼ぶ。
「なぁ」
「え?」
「やっぱりオレは、お前が好きだ」
「え!?え!?」
話の流れが全然わからない……!!!晋作さんが何を言いたいのか、読めない…!
「ははは!さぁ行くぞ!」
晋作さんはそう言うと、またわたしの肩を抱きなおして歩き始めた。
と、その時。通りの向こうに見覚えのある人影が見えた。
「あ。慎ちゃんと以蔵だ」
「だな」
こっちに気付くかな??わたしはとりあえず2人に向かって手を振ってみる。
か……肩抱かれたままなのは恥ずかしいんだけど。でも、晋作さんは言っても離してくれそうにないし……。
まぁ、いっか。……くらいの軽い気持ちで手を振ったわたしに、どうやら2人は気付いてくれたらしい。けど。
慎ちゃんはこちらを指差して口をパクパクさせていて。やがて、我に返ったかダーッとこちらに向かって駆けてきた。
「2人とも、こっちに来てください!!」
「え?」
「なんだっ?」
意味がわからなかったのはわたしだけではなく、晋作さんも、だった様子で。
慎ちゃんに腕を引かれて2人で路地に引き込まれる。
「おいおい、何だよ急に!」
「何だよっではありません!!!」
慎ちゃんがすごい目つきでギッと晋作さんを睨みつける。
…い、いつもの、なんとかっスよ口調が無くなってる……。慎ちゃんがそれだけ真剣ってコトなんだろうか。。。
「天下の高杉晋作ともあろう人が、真昼間から往来で女子の隣を……それも、肩を抱いて歩くとは何事ですかーっ!」
……こんな剣幕の慎ちゃん、見た事がない……。
けれど、晋作さんはまるで悪びれる様子もなく返す。
「こうして歩いた方が、こいつの顔がよく見えるんだよ。なぁ?」
「え!?あ、う、うん……?」
突然話を振られて、わたしは相槌を打つ。すると、慎ちゃんは今度はわたしに向かって訴える。
「姉さんお願いです!高杉さんに恥をかかせるような事は、控えてください…っ!!」
「…恥……」
わ、わたしのせいで晋作さんが恥を?
何も気付いてなかった!……そっか、そうなんだ。
……ていうか、何が???
軽く混乱するわたしが慎ちゃんにそれを聞こうとしたその時。えらく冷たい声がした。
「中岡、言葉を選べ」
思わず傍にいる晋作さんを見上げるわたしと、その言葉にも負けず繰り返す慎ちゃん。
「な、なんです!だって、そうでしょう?高杉さんは……」
「中岡……言葉を選べと言った」
晋作さんは、慎ちゃんの言葉を遮ると、スッと刀に手をかける。
「晋作さんっ!」
やだ、なに、この展開。わたしにはさっぱりこの空気の意味がわからない……!!!
「いいか?こいつへの侮辱はオレへのそれだ。それ以上言ってみろ」
その場の空気が晋作さんの威圧に飲まれたように凍りつく。
一瞬空気に怯んだ慎ちゃんだったが、ぐっと堪えるように口を開く。
「……ひ、退きませんっ!絶対に改めていただきますっ!!」
「やめろ、慎太」
慎ちゃんを制したのは、それまでずっと黙って立っていた以蔵だった。
「高杉さん……名をおとしめる破天荒は感心しない。おさめてくれ」
声は、どこまでも静かで、冷静だった。
以蔵の言葉に、晋作さんは刀にかけた手を離す。
「貴方の双肩に在る者達を忘れないで下さい」
「十分に理解している」
「……わかりました。おい、行くぞ」
以蔵はわたし達に向かって小さくお辞儀をすると、慎ちゃんを促して去っていく。
2人の姿が視界から消えた頃。わたしは晋作さんを見上げて言う。
「慎ちゃんは、晋作さんの仲間だよね?」
言葉に晋作さんがわたしを見下ろして、軽く答える。
「ああ、まあな?」
「だったら、あんな簡単に刀に手をかけないで欲しいな」
あの…町で出会った酔っ払いとも違う。悪い事をしたわけでもないし、見知らぬ仲でもない。むしろ親しくしているのに、いきなりのあの態度はあんまりだと思った。
慎ちゃんには慎ちゃんの思いがあったのだろう。あんなに凄んでる晋作さんに意見するくらいなんだから。そう思ってわたしは言ったわけだけど。
晋作さんは、険しい表情で口を開いた。
「簡単に?」
「うん」
「……オレは、お前が大切だ」
「…晋作さん……」
「だから、お前を侮辱する者、お前を傷つける者。……オレはそういう奴らは誰であっても、許さない」
晋作さんは、どこまでも真剣で。だから、言葉に嘘はなくて『例えそれが仲間であっても』許さないのだと、伝えてくれた。
気持ちはすごく嬉しい。そんなに大切に思われている事は、嬉しい。
けど、でも。
…その気持ちだけで十分なのに。
そんな思いを抱きながら、わたし達は藩邸へと戻った。えええええッ!??忘れられない一日はッ!!?(爆)これじゃ忘れちゃうよッ(笑)


「わたし……もうここにいない方が、いいのかな……」
部屋に1人。
ぼんやりと、色んなことを思い返していた。昨日の新撰組の一件や、今日の昼間の出来事。
どれにしたって、わたしのせいで晋作さんに迷惑をかけちゃったんだよね……。
やっぱりわたし、もうここにいたらダメだ……。
ここを、出よう……。
当てがある訳ではなかったけれど、これ以上晋作さんに迷惑をかけるのだけはイヤだと思った。大して持っていたわけでもない荷物をのろのろとまとめ始める。
きちんと袋に納まるように服をたたんで、詰めて。そうして指が、カバンの中の携帯に触れる。元の世界では、毎日使っていたのに。今やなんだか遠い存在にも感じる携帯。
そういえば、初めて晋作さんに会った頃、面白がってたなぁ…。
くすっと……笑うと同時に、視界が揺らぐ。
……ダメだ。こんなわたしじゃ晋作さんに怒られちゃうよね。
滲んだ涙を拭って、また荷物をまとめていく。
と。
「……あれ?」
必死にバッグの中を探る。けど、目当てのものが見つからない。
───晋作さんにもらった、あの大切なかんざし。
「どうしよう……どこかに落としちゃったのかな…」
でも、部屋を出て藩邸のどこを探しても、かんざしは出てこなかった。
だとすると、……外……??
1人で出歩くな、とは言われている。
特に、夜なんてもってのほかだと。
……だけど…………。
藩邸からそんなに離れなければ、きっと大丈夫。
わたしは提灯を持って、こっそりと外に出た。イタい~~~~!!!イタいよ主人公~~~~~ッ!!!!夜出歩く度に何かしら起こってンじゃん…!学習能力ゼロかよ……

「ダメだ…見つからない」
辺りを見渡して……と、言っても提灯で見える範囲なんて限られているが、呟く。
こんなに小さな明かりじゃ、あんな小さな物を見つけるのは無理なんだろうか。
途方に暮れて立ち尽くしている時。
後ろからかけられた声に、わたしは振り返った。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「小五郎!あいつはどこ行った!?」
「え?半刻ほど前に廊下で見かけたよ?いないのかい?」
長州藩邸。晋作は姿の見えない少女を探して歩いていた。
「ああ。どこにもいないんだ」
「よく探したのか?」
「当たり前だ!この藩邸内でオレの知らない場所はない!」
自分の意図するより他の部分で思わず声を荒げて困惑する。小五郎に当たってもしょうがない。……そんなことはわかっているのに。
「ああ……すまん…」
「いや、いいよ。わたしも探してみよう」
「…頼む…」
綺麗に片付けられていた、少女の部屋。
なんだか嫌な予感がして、たまらなかった。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

振り返った先に立っていたのは。
「あ……沖田さん」
びっくりした。誰かと思った…。
こんな夜に知らない人だったら、ちょっと怖いもんね。
ほっとして、目の前の沖田さんを見ると今までと違った青い羽織を纏っている。
周りに、同じ羽織を着た人も沢山いる。
……なんか、沖田さん…いつもと、雰囲気が違うような。
新撰組の人もいるし…今はとりあえず離れたほうがいい気が……。
「あの、わたし捜し物があるので、これで……」
言って横を通り抜けようとするけど、沖田さんが立ちふさがって進ませてくれない。
「あ……の……」
「探しているのは、これかな?」
沖田さんの手にあったのは、まさに探していたあのかんざしだった。
「ありがとうございます!わたし、それずっと捜していて!」
そう言ってわたしがかんざしを受け取ろうとすると、沖田さんはひょいっとかわして微笑んだ。
「おっと。駄目だよ?」
???何?
「返してください!」
「あの日……僕は、君の後を、追ったんだよ」
あの日……?
わたしがその日を特定するより早く。沖田さんが続けた。
「長州藩邸に向かった、君のね」
その言葉に、ギクリとする。
あの日の大久保さんの剣幕や、新撰組と仲が悪いのだと言った晋作さんを思い出す。
「大久保、桂……それから、高杉。そうそうたる顔ぶれだ」
……どうしよう。
「梅之助は変名だったんだね?やられたよ」
どうしよう、どうしよう……!!
にこり、と目の前の沖田さんが笑う。……笑顔ほどに、この人は優しい人じゃない。
今。──今更。やっと気付いた。
「さて、手荒な真似はしたくない。坂本達は、今どこにいる?」
誰か……誰か……っ!
「あの顔ぶれと共に長州藩邸にいた君なら、知っているんじゃないかな?ね?」
どうしよう、どうしたらいいの!?晋作さん……っ!


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てなトコで、拾弐話終了です~♪すっごい気になるトコで終わってますが……(汗)
んでもって、想像通りのベタな展開とやっぱり主人公のイタさに泣けてきます・・・っ!どうしてあの子はあんなにもお馬鹿ちんなのかっ!!!(泣)
辛い~~~っ!!!
けど、お馬鹿ちんだからこそ話を動かせるわけで、そういう意味では保守派のあたしは主人公向きじゃない性格(爆)……慎重なのだと褒めてv

さておいて!
今回プレイしていて……このゲームの特徴にも気付きましたよ~。
ウラ技的な???
このアプリゲーム、実は保存せずに電源を押して切ると、章の頭からやり直す事が可能なんですね~(苦笑)だから、選択肢を大幅に間違った!!みたいな時は『保存して中断』じゃなくて、無理矢理終了させるとアラ不思議☆もう一回やり直せちゃうよvみたいな。
…ちなみに、何度でもきくようです。必要な方はお試しアレ♪
ただし!あたしみたいに(イヤ、こんな人いないと思うんですけど(苦笑))一度保存して中断したデータをかなり時間が経ってから再開するとかしてる人は(こうすると、前のレヴュー書き終わった直後に次の話がすぐ読めるんですね……。以前書きましたけど、プレイ制限は初めてその章を読み始めた時間から計算されてるので。書き起こしにめちゃくちゃ時間がかかるため、間で睡眠と仕事を挟むあたしはプレイ制限がうまく繰り下がっちゃってるんです…)プレイ制限が最後に章をやり直した時間からの換算になるので、要注意。
けど、攻略サイト様なんかにはオススメですかね(笑)これ。
ベスト選択肢探すのは、超簡単ですv

あぁ。でもあたしがケータイゲーム初心者だから知らなかっただけかもしれないですけど(笑)

さて。明日はどうなるのか。楽しみです。
……笛の出番かな……。藩邸の近くだって言ってたし。(ぼそ)

上記の理由で、プレイ制限が更新されてしまったあたしは(爆)とりあえず今日は寝ます!!!(爆)今日一気に2話分レヴューを書いて、制限を元に戻そうと目論んでいたんですけど、思わぬところで解放されてしまった(苦笑)
そんなわけで~、以下次回ッ!!!


今日の選択肢
仕方ないと言う(花)
刀はダメだよ(立ち絵なし)

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