幕恋 『高杉晋作 第七話』
2009年12月7日 携帯アプリ「いやっ!近寄らないで!」
「あらら、冷たいね~」
「この間はとんだ邪魔が入っちまったからなぁ」
言って男たちがゲラゲラと下品に笑った。こいつら……懲りない男たちね…っ!
…ん??
身を引いたわたしの目に、男たちの背後にゆらりと立った人物の顔が見えて、一気に脱力する。
「その邪魔って言うのは、オレの事か?」
「高杉っ!」
びくっと身をふるわせた男が振り返りざまにそう叫ぶ。
「さぁて、オレの女に何か用か?」
笑顔でそう凄まれて、男たちはあっという間に逃げ腰で……ていうか、むしろ逃げ出した。が、その二人の着物を晋作さんがむんずと掴むと、無造作に足元に引き倒す。
「オレはなぁ、学習しない奴が一番嫌いなんだ」
にっこりと笑う、その笑顔がそこはかとなく怖い…っ。ここまで笑顔で、そして次の言葉を発した時には目だけは少しも笑っていなかった。
「さぁ、遊んでいこうぜ?」
ヤバイ…。また本気だ…っ!!「助けてくれ!」と叫ぶ男たちに晋作さんは言い放つ。
「お前らなぁ…一度ならず、二度までもこのオレ様の女に手を出そうとしたんだ!それなりの覚悟あってのことだろうが!!」
晋作さんの手が刀にかかり。その迫力のせいなのか、男たちは逃げ出すことも出来ずに動かずに居る。
これじゃ、いつかの夜と同じだ…!わたしは、また晋作さんにしがみついて止めようと試みた。……だって、言葉だけで止められるとは思えない…!
それくらい、晋作さんが本気で怒っているのがわかったから。
「こら、放せ!危ないだろうが!」
「そう思うんだったら、やめて!お願いっ!」
「お前なぁっ!状況がわかってんのか!……っ!」
そう、晋作さんが叫んだ直後だった。
あんなに怒っていた晋作さんがスッと手を刀から放すと、わたしの腕をぐいっと引いて歩き始めた。男たちがいる場所から離れるように。
晋作さんに腕を引かれるまま歩きながら振り返ると、男たちが命拾いしたとばかりに逃げ出していくのが見えた。
その後も晋作さんはドンドン歩いていく。
……急にどうしたんだろう…。痛いほど腕を引っ張られて。無言のままで。
いつもと違う空気に、只事ではないのだと直感でそう思う。
そして。
人気のない草むらに来たその時。晋作さんの姿と、腕を引く力が消えた。
「ごほっ!!ご…!!ごほっごほっごほっ…っ!!」
咳き込む声で、消えたのではないと気付いた。
晋作さんが強く咳き込んで、うずくまっている。
「晋作さん…!晋作さんっ!どうしたの?大丈夫!?」
晋作さんはうずくまったまま何度も何度も咳き込んで、わたしの声も聞こえているのかいないのか、答えないままだ。
わたしはどうしたらいいのかわからなくて、晋作さんの背中を何度も撫でる。
しばらくそうしていると、咳は治まってきたけど。相変わらず喋ることは出来ない様子で肩でぜいぜいと苦しそうに呼吸している。
……只事じゃない。藩邸に、なんとか連れて帰らないと…!!!
「もうちょっとだけ頑張って!!わたしが藩邸に連れて帰ってあげるから!」
暗闇と、状況と。泣きそうなのはやまやまだったけど、今わたしが弱気でいるわけにはいかない!わたしは晋作さんに肩を貸して何とか立ち上がらせようとする…のだけど。
どんなに力を入れて踏ん張っても。晋作さんの大きな身体はなかなか持ち上がらない。
……どうしよう…!このままじゃ晋作さんが……!
と、その時背後から声がした。
「あれ?君はこの間の」
この…人。大通りでわたしの事珍妙珍妙連呼した……。(沖田さんです)
「!ごほっごほっ……!!」
横で晋作さんがまた咳き込む。
うん。なりふり構ってる場合じゃないよっ!!!
わたしは目の前の…顔見知りでしかない彼に頼み込む。早く家に連れて帰りたいので手を貸して欲しいと。
目の前の…月明かりで見て、今思ったけど。キレイなカオの青年はふっと笑う。
「わかった。とにかく、君は落ち着いて」
「あ……」
なんだろう、この人。声……なのかな?雰囲気なのかな?自分の頭にのぼった血が冷めるみたいな気分。
そう、今はわたし落ちつかなくちゃ。
「大丈夫。僕にできることなら、手を貸しますから」
「ありがとう……ございます」
わたしは、ほっと息をついた。それを見て、彼は自己紹介する。
「僕は、新撰組の沖田総司。困った時はお互い様。気にしなくていいですよ」
「新撰組…?」(を、知らないのはもう…バカとかどうとかいう領域を超えてますーーー(泣))
沖田さんの言った、その『新撰組』を知らないことでとても珍しそうな反応を返される。
あ……。これ、知ってて当然のことなのね…。慌ててわたしはこの辺の事に詳しくないのだと言い訳する。
「新撰組……沖…田……」
横で、晋作さんが小さく。本当に小さく呟くのが聞こえた。
「え……なに…」
「それで、彼をどこかまで運べばいいのかな?」
「はい。えっと」
道を答えようとして口ごもる。そういえば、ここはどの辺なの??結局晋作さんに強引に連れてこられたので自分のいる位置すら怪しい……。
「あっちの方向に……なると思うんですが……」
なーんて。怪しいことこの上ない道案内を試みてみた。その時。
フラリと晋作さんが立ち上がった。
「無理したらダメだよっ!!!」
「…お前は知らんやろが。沖田はんと言えば、池田屋の英雄さんでっせ。そんな新撰組の偉いさんに……迷惑かけるワケ、いきまへん…っ!」
「喋らないで!また咳が出ちゃう!」
彼を止めつつ、でも違和感も感じている。なんだか、晋作さん、喋り方が変??
「いつも心配かけてすまんなぁ……。だが、お前の梅之助様はそんなにやわやないさかいに……」
梅之助…?
……お前の…梅之助さま……って、晋作さんのこと??
「梅之助様を信じられないんか…」
多分、無理してるんだろう。辛そうな表情のまま……でも、何かを訴えるように晋作さんがわたしを見つめる。
晋作さんが正直何を言いたいのか。さっぱりわからなかったけど。
ただ、わかったこともある。名前、と。この人に頼ってはダメなのだということ。
わたしは、崩れ落ちそうな晋作さんの身体を必死で支える。大丈夫。わかったよ、と思いを込めて。
「う…梅之助さん、無理しないで」
言葉にふぅと息をついた晋作さんに、沖田さんの声がかかる。
「梅之助さん、あんたもしや……労咳なのかい?」
言葉に晋作さんは答えない。……ろうがいって、なに……??
「!?…ごほっ、ごほっごほっ!!」
その時晋作さんがまた大きく咳き込んで、その勢いでわたしの身体ごと崩れ落ちそうになる。
「危ないっ!」
バランスを崩したわたし達を支えようと、沖田さんが手を伸ばす。けど。
「大丈夫…や、さか……い」
沖田さんの手がわたし達に触れるより一瞬早く、晋作さんの手が真っ直ぐに突き出される。
それは、明らかに沖田さんを拒否する意思表示。
「……仕方、ないかな」
新撰組は、京の人たちに嫌われているから。と、幾分自嘲気味に沖田さんが笑う。
「行こう……」
フラフラと歩き出す晋作さんを追って、わたしは彼に肩を貸す。
けど、顔だけをクルリと振り向かせて沖田さんを見た。
「あ……あの、沖田さんっ!」
「はい?」
佇むその人は、とても悲しそうに見えた。晋作さんは嫌がっているけれど、あの人はわたし達を助けようと手を差し延べてくれた…。
その事だけは間違いのない事実で、だから。
「すみません!でも、ありがとうございました!」
ふっと、優しげな笑みを浮かべる沖田さん。
「いいんですよ。気にせず、気をつけてお帰り」
かなり酷いことをしたと思うのに。笑みにも言葉にも、嘘はないように聞こえた。
優しそうな人。
今度、もし会うことがあったらもう一度ちゃんとお詫びとお礼を言わなくちゃ!
そう決意して、隣を歩く晋作さんを思う。
こんなに具合が悪そうなのに、急いで歩いてる……。まるでここから少しでも早く離れたがってるみたいだ。
頼りない足取りで歩く晋作さんを、わたしは必死で支える。
「晋作さん、しっかり」
「……あぁ……」
咳は大分治まったようだけど、まだ息は荒い。
実は晋作さんを支える腕も、だんだん感覚がなくなってきている。
でも、周りには相変わらず人影がなくて。
…少し休んでもらう方がいいかも。このまま腕に力が入らなくなったら晋作さんが転びそうになっても、助けてあげられない…。
「晋作さん、この草むら抜けたら、少し休もうね」
「ん…わかった……」
相変わらず、肩で息をする晋作さんは本当に苦しそうだった。
だから、思わず聞いてしまう。
「大丈夫?このまま歩ける?」
「ああ、大丈夫…だ……歩こう…」
そう答えられてから、気付いた。そんな聞き方したらダメだった、と。
大丈夫?って聞かれたら、晋作さんは大丈夫って答えるに決まってる。そういう人だ。
つくづく、自分の未熟さがイヤになる。わたしが悲しい時、晋作さんは自然に…わたしがそうと感じないような言葉や…態度で楽にしてくれたのに。
わたしは、そんなことすらしてあげられない。辛いのを代わってあげることもできなければ、和らげることもできない。支える事だって、ままならない。
いや、ダメだ!!!今ここで落ち込んでもしょうがない!
「わかった!もう少し、頑張って」
「……ああ……。…重く、ないか?」
「平気平気!わたしこう見えても力あるんだから!」
絶対気付かれたくない!だから、わたしは笑って元気よく答える。
もう、腕の感覚がほとんどないけど。支えられなくなって倒れたら…怪我でもさせてしまったらどうしようかと、不安だけど。
でも、それを出してしまったら結局また、晋作さんに無理をさせてしまう。……それだけは、せめて避けたい。
わたしの体にかかるズシリとした晋作さんの重みを必死で支えて、一歩一歩、晋作さんに合わせて慎重に歩く。
しばらく歩きつづけていると、なんとか草むらを抜け出した。
「あ!階段があるよ。少し腰掛け……!?」
わたしは言いかけた言葉を続けることができなかった。
既視感。…とでもいうのだろうか。ふと目に入ってきた情景に、眩暈がする。
そうだ、ここは。
「どうした?」
「晋作さん……ここ…わたしが探していた……お寺」
「え!?」
晋作さんも、目の前のそれをじっと見る。
「間違い…ないのか?」
「うん……」
昼と、夜。光の加減で随分と印象は変わって見えるけど間違いないと思う。
ここが、わたしが飛ばされた場所、だ。
「はは……なるほど」
晋作さんが小さく笑った。
「見つからないワケだ……」
「え…?な、なんで…?」
晋作さんがじっと前を見つめている。
「……これは、神社……オレが探そうとしていたのは、寺だったからな……」
「あ…それって、違うの?」(こらーーーッ(泣)そんな常識レベルで間違わないでよッ!)
「ああ……違う」
ガーン!!!!衝撃の事実。じゃあ、私は今まで全くの見当違いをしてたワケだ…?
「そうか…ここが、そうなの、かっ……」
言葉の途中でまた晋作さんが辛そうに咳き込む。とにかく座ってもらおうと、晋作さんの体を支えてゆっくりと階段に座らせる。
そして、落ちる沈黙。
何を言えば良いのか、わからなかった。多分、晋作さんも同じなんだと思う。
今夜は、色々あったから……。
「なぁ…」
急に声をかけられて、わたしは晋作さんがまた苦しいのかと思って身構える。
…イヤ、身構えてもしょうがないけど。
結局そうではなくて、さっきの……晋作さんの演技(?)に合わせられたことを褒められる。
「そういえば、どうして突然あんな……」
「あれは、新撰組の沖田だったんだろう?」
ふっと笑い、晋作さんが続けた。
もしわたしが晋作さんに合わせる事ができず、彼が『高杉晋作』だと知れていたら。わたしが連れて帰れたのは晋作さんの胴体だけだっただろう、と。
それはつまり、晋作さんが殺されてたと、いうことで。
でも、沖田さんはそんなに悪い人には見えなかったのに。
そう言うと、珍しく厳しい口調で晋作さんに制された。
「良い、悪いじゃない」
びっくりしたのと、何を言っていいのかわからなかったことで。わたしはそれ以上何も言えなくなる。
「……すまん」
しばらくして、晋作さんがそう言って「なかなか、調子が戻らん」とちょっとおどけてみせた。そしてそのままわたしの頭をガシガシと乱暴に撫でる。
「まぁ、とにかく。新撰組は京の見廻りの中でも過激な奴らだからな」
幸いにして町の人たちにも嫌われているので、ああいった風に避けても不自然じゃなかった……ということらしい。
なんだか、この世界のことはよくわからないけど。とりあえず今回の一件に関しては『新撰組と高杉さん達は仲が悪い』と覚えておくように、と念を押された。
その後は、沖田さんがわたしを知っていたのは何故なのか、とか。実はわたしは土方さんにも会ったことがある、とか。
そんな話をして。
晋作さんに顔が広いと褒められたり、けれど『倒幕派』の人間(これが多分晋作さんたちのこと…なのよね?)と親交があると知れたらわたしの身の安全も危うい。とも教えてもらった。
いつになくきつい眼差しで話す晋作さんが真剣で。
だから、わたしも新撰組の人たちには気をつけることを晋作さんと約束する。そうすると、
「よし!素直で偉いぞ!」
と、またガシガシ撫でられた。
「もう!またそうやって子供扱いする!」
「ははは、ほら、むくれるな!」
もう……。
でも、結構元気になってきたかな…?そう思えて、ほっとする。
さっきは本当にどうなることかと思ったけど。
……そういえば。
「ろうがい、って何?」
「っ!」
わたしが口にした途端、晋作さんが気まずそうな顔をして視線をそらしてしまう。
「…聞きたいか?」
「…え、…えっと……」
聞きたいか聞きたくないかと言われれば、聞きたい。
でも、晋作さんが言いたくないことを無理に聞くのも……気が引けるような。
「教えてやらなくもない……ただし。お前がオレと夫婦になると約束をしたら、だ!」
「え!?夫婦っ!?」
突然の言葉にアタフタしてしまう。
一体何がどうなるとそうなってしまうのか?今だって付き合っているとは程遠い関係だと思うし、そんな……仲じゃ、ないと思う。のに。
「こんな時に、ふざけないで下さい」
「ふざけていない」
晋作さんは間髪いれずに答え、真っ直ぐにわたしを見る。
「オレはお前が好きだ。そう望んだとしても不思議ではないだろう?」
「ふっ、ふしぎっ!不思議だよ!!!」
出会って数日、まだ良く知らない相手同士で、しかも晋作さんの言葉が事実だとすればわたしは未来の人間で、晋作さんは過去の……歴史の中の人だ。
いろんなイミで隔たりがあるだろうし、その溝が埋められるほどの…何かがあるわけじゃない、と思う。……少なくとも、今は、まだ。
「ほら、そんなに興奮するな」
「興奮なんてしてないから!」
精一杯強がると、晋作さんがわたしに手を差しのべた。
「ははは、本当に可愛い奴だ!ほら、藩邸に帰るぞ?」
冷えたその手を、差し延べられたのよりももっと静かに握り返す。
晋作さんの手。わたしより大きくて、ごつごつしてて。包み込んでくれる、手。
ずっと、こうしていたいな……。
そう思いながら、繋いだ手をきゅっと握ると。晋作さんも握り返してくれる。
わたし達は、そうして手を繋いだまま藩邸への帰路についた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
ハイ、第七話でしたっ!!!
ん~~~。どうも選択肢を選んでる感じだと、そろそろ晋作さんに傾いてきているような返答を返すほうがウケる予感ですね…(どんな感想だ)
今回の2個目の選択は、多分『考えてみます(だっけ?)』そんな感じの返答のが良かったんではないかな、と。悔やんでおります(笑)
まぁ、でもあれで「ふざけてない」からのとうとうと語られる感じは凄く好きだったんで良かったですけど(笑)
ちょっと……主人公がイタすぎることだけは勘弁だなぁ…と思いますけど(苦笑)まぁ、しょうがないですよねぇ…。この主人公ちゃんが『歴女』だったり秀才だったりした日にゃ好みの人に付いて、歴史を変えちゃいますよねぇ…(怖)
しかしイタイ……。新撰組知らないのは、ナイわぁ……(爆)労咳だってわかるでしょ???
書き起こしてる一人称がまたその『わたし』視点だからほんと凹みますよね(笑)
晋作視点の時のが、三人称で語れるんで楽チンです(主人公拒否!?)
ま、読んでる側にも余計な情報を与えない為には、お馬鹿な主人公視点がやりやすくはあるでしょう。(だから、なんて感想だ…(泣))
思ったより簡単に二度目の災難が解決されてがっかり。
かんざしのエピソードはここで使わないのか、でがっかり。。(どうしよう。元の世界に戻る時に思い出として渡されたら(苦笑)泣くかも(ベタベタ))
そして何より。
せっかく寺…もとい神社、見つかったんですけどな展開にガッカリ。(笑)
龍でも召喚しろ。8人くらい仲間見つけて(メイン攻略キャラ、9人なのに!爆)
今日の選択肢
しがみついて止める(立ち絵なし)
ふざけないで
「あらら、冷たいね~」
「この間はとんだ邪魔が入っちまったからなぁ」
言って男たちがゲラゲラと下品に笑った。こいつら……懲りない男たちね…っ!
…ん??
身を引いたわたしの目に、男たちの背後にゆらりと立った人物の顔が見えて、一気に脱力する。
「その邪魔って言うのは、オレの事か?」
「高杉っ!」
びくっと身をふるわせた男が振り返りざまにそう叫ぶ。
「さぁて、オレの女に何か用か?」
笑顔でそう凄まれて、男たちはあっという間に逃げ腰で……ていうか、むしろ逃げ出した。が、その二人の着物を晋作さんがむんずと掴むと、無造作に足元に引き倒す。
「オレはなぁ、学習しない奴が一番嫌いなんだ」
にっこりと笑う、その笑顔がそこはかとなく怖い…っ。ここまで笑顔で、そして次の言葉を発した時には目だけは少しも笑っていなかった。
「さぁ、遊んでいこうぜ?」
ヤバイ…。また本気だ…っ!!「助けてくれ!」と叫ぶ男たちに晋作さんは言い放つ。
「お前らなぁ…一度ならず、二度までもこのオレ様の女に手を出そうとしたんだ!それなりの覚悟あってのことだろうが!!」
晋作さんの手が刀にかかり。その迫力のせいなのか、男たちは逃げ出すことも出来ずに動かずに居る。
これじゃ、いつかの夜と同じだ…!わたしは、また晋作さんにしがみついて止めようと試みた。……だって、言葉だけで止められるとは思えない…!
それくらい、晋作さんが本気で怒っているのがわかったから。
「こら、放せ!危ないだろうが!」
「そう思うんだったら、やめて!お願いっ!」
「お前なぁっ!状況がわかってんのか!……っ!」
そう、晋作さんが叫んだ直後だった。
あんなに怒っていた晋作さんがスッと手を刀から放すと、わたしの腕をぐいっと引いて歩き始めた。男たちがいる場所から離れるように。
晋作さんに腕を引かれるまま歩きながら振り返ると、男たちが命拾いしたとばかりに逃げ出していくのが見えた。
その後も晋作さんはドンドン歩いていく。
……急にどうしたんだろう…。痛いほど腕を引っ張られて。無言のままで。
いつもと違う空気に、只事ではないのだと直感でそう思う。
そして。
人気のない草むらに来たその時。晋作さんの姿と、腕を引く力が消えた。
「ごほっ!!ご…!!ごほっごほっごほっ…っ!!」
咳き込む声で、消えたのではないと気付いた。
晋作さんが強く咳き込んで、うずくまっている。
「晋作さん…!晋作さんっ!どうしたの?大丈夫!?」
晋作さんはうずくまったまま何度も何度も咳き込んで、わたしの声も聞こえているのかいないのか、答えないままだ。
わたしはどうしたらいいのかわからなくて、晋作さんの背中を何度も撫でる。
しばらくそうしていると、咳は治まってきたけど。相変わらず喋ることは出来ない様子で肩でぜいぜいと苦しそうに呼吸している。
……只事じゃない。藩邸に、なんとか連れて帰らないと…!!!
「もうちょっとだけ頑張って!!わたしが藩邸に連れて帰ってあげるから!」
暗闇と、状況と。泣きそうなのはやまやまだったけど、今わたしが弱気でいるわけにはいかない!わたしは晋作さんに肩を貸して何とか立ち上がらせようとする…のだけど。
どんなに力を入れて踏ん張っても。晋作さんの大きな身体はなかなか持ち上がらない。
……どうしよう…!このままじゃ晋作さんが……!
と、その時背後から声がした。
「あれ?君はこの間の」
この…人。大通りでわたしの事珍妙珍妙連呼した……。(沖田さんです)
「!ごほっごほっ……!!」
横で晋作さんがまた咳き込む。
うん。なりふり構ってる場合じゃないよっ!!!
わたしは目の前の…顔見知りでしかない彼に頼み込む。早く家に連れて帰りたいので手を貸して欲しいと。
目の前の…月明かりで見て、今思ったけど。キレイなカオの青年はふっと笑う。
「わかった。とにかく、君は落ち着いて」
「あ……」
なんだろう、この人。声……なのかな?雰囲気なのかな?自分の頭にのぼった血が冷めるみたいな気分。
そう、今はわたし落ちつかなくちゃ。
「大丈夫。僕にできることなら、手を貸しますから」
「ありがとう……ございます」
わたしは、ほっと息をついた。それを見て、彼は自己紹介する。
「僕は、新撰組の沖田総司。困った時はお互い様。気にしなくていいですよ」
「新撰組…?」(を、知らないのはもう…バカとかどうとかいう領域を超えてますーーー(泣))
沖田さんの言った、その『新撰組』を知らないことでとても珍しそうな反応を返される。
あ……。これ、知ってて当然のことなのね…。慌ててわたしはこの辺の事に詳しくないのだと言い訳する。
「新撰組……沖…田……」
横で、晋作さんが小さく。本当に小さく呟くのが聞こえた。
「え……なに…」
「それで、彼をどこかまで運べばいいのかな?」
「はい。えっと」
道を答えようとして口ごもる。そういえば、ここはどの辺なの??結局晋作さんに強引に連れてこられたので自分のいる位置すら怪しい……。
「あっちの方向に……なると思うんですが……」
なーんて。怪しいことこの上ない道案内を試みてみた。その時。
フラリと晋作さんが立ち上がった。
「無理したらダメだよっ!!!」
「…お前は知らんやろが。沖田はんと言えば、池田屋の英雄さんでっせ。そんな新撰組の偉いさんに……迷惑かけるワケ、いきまへん…っ!」
「喋らないで!また咳が出ちゃう!」
彼を止めつつ、でも違和感も感じている。なんだか、晋作さん、喋り方が変??
「いつも心配かけてすまんなぁ……。だが、お前の梅之助様はそんなにやわやないさかいに……」
梅之助…?
……お前の…梅之助さま……って、晋作さんのこと??
「梅之助様を信じられないんか…」
多分、無理してるんだろう。辛そうな表情のまま……でも、何かを訴えるように晋作さんがわたしを見つめる。
晋作さんが正直何を言いたいのか。さっぱりわからなかったけど。
ただ、わかったこともある。名前、と。この人に頼ってはダメなのだということ。
わたしは、崩れ落ちそうな晋作さんの身体を必死で支える。大丈夫。わかったよ、と思いを込めて。
「う…梅之助さん、無理しないで」
言葉にふぅと息をついた晋作さんに、沖田さんの声がかかる。
「梅之助さん、あんたもしや……労咳なのかい?」
言葉に晋作さんは答えない。……ろうがいって、なに……??
「!?…ごほっ、ごほっごほっ!!」
その時晋作さんがまた大きく咳き込んで、その勢いでわたしの身体ごと崩れ落ちそうになる。
「危ないっ!」
バランスを崩したわたし達を支えようと、沖田さんが手を伸ばす。けど。
「大丈夫…や、さか……い」
沖田さんの手がわたし達に触れるより一瞬早く、晋作さんの手が真っ直ぐに突き出される。
それは、明らかに沖田さんを拒否する意思表示。
「……仕方、ないかな」
新撰組は、京の人たちに嫌われているから。と、幾分自嘲気味に沖田さんが笑う。
「行こう……」
フラフラと歩き出す晋作さんを追って、わたしは彼に肩を貸す。
けど、顔だけをクルリと振り向かせて沖田さんを見た。
「あ……あの、沖田さんっ!」
「はい?」
佇むその人は、とても悲しそうに見えた。晋作さんは嫌がっているけれど、あの人はわたし達を助けようと手を差し延べてくれた…。
その事だけは間違いのない事実で、だから。
「すみません!でも、ありがとうございました!」
ふっと、優しげな笑みを浮かべる沖田さん。
「いいんですよ。気にせず、気をつけてお帰り」
かなり酷いことをしたと思うのに。笑みにも言葉にも、嘘はないように聞こえた。
優しそうな人。
今度、もし会うことがあったらもう一度ちゃんとお詫びとお礼を言わなくちゃ!
そう決意して、隣を歩く晋作さんを思う。
こんなに具合が悪そうなのに、急いで歩いてる……。まるでここから少しでも早く離れたがってるみたいだ。
頼りない足取りで歩く晋作さんを、わたしは必死で支える。
「晋作さん、しっかり」
「……あぁ……」
咳は大分治まったようだけど、まだ息は荒い。
実は晋作さんを支える腕も、だんだん感覚がなくなってきている。
でも、周りには相変わらず人影がなくて。
…少し休んでもらう方がいいかも。このまま腕に力が入らなくなったら晋作さんが転びそうになっても、助けてあげられない…。
「晋作さん、この草むら抜けたら、少し休もうね」
「ん…わかった……」
相変わらず、肩で息をする晋作さんは本当に苦しそうだった。
だから、思わず聞いてしまう。
「大丈夫?このまま歩ける?」
「ああ、大丈夫…だ……歩こう…」
そう答えられてから、気付いた。そんな聞き方したらダメだった、と。
大丈夫?って聞かれたら、晋作さんは大丈夫って答えるに決まってる。そういう人だ。
つくづく、自分の未熟さがイヤになる。わたしが悲しい時、晋作さんは自然に…わたしがそうと感じないような言葉や…態度で楽にしてくれたのに。
わたしは、そんなことすらしてあげられない。辛いのを代わってあげることもできなければ、和らげることもできない。支える事だって、ままならない。
いや、ダメだ!!!今ここで落ち込んでもしょうがない!
「わかった!もう少し、頑張って」
「……ああ……。…重く、ないか?」
「平気平気!わたしこう見えても力あるんだから!」
絶対気付かれたくない!だから、わたしは笑って元気よく答える。
もう、腕の感覚がほとんどないけど。支えられなくなって倒れたら…怪我でもさせてしまったらどうしようかと、不安だけど。
でも、それを出してしまったら結局また、晋作さんに無理をさせてしまう。……それだけは、せめて避けたい。
わたしの体にかかるズシリとした晋作さんの重みを必死で支えて、一歩一歩、晋作さんに合わせて慎重に歩く。
しばらく歩きつづけていると、なんとか草むらを抜け出した。
「あ!階段があるよ。少し腰掛け……!?」
わたしは言いかけた言葉を続けることができなかった。
既視感。…とでもいうのだろうか。ふと目に入ってきた情景に、眩暈がする。
そうだ、ここは。
「どうした?」
「晋作さん……ここ…わたしが探していた……お寺」
「え!?」
晋作さんも、目の前のそれをじっと見る。
「間違い…ないのか?」
「うん……」
昼と、夜。光の加減で随分と印象は変わって見えるけど間違いないと思う。
ここが、わたしが飛ばされた場所、だ。
「はは……なるほど」
晋作さんが小さく笑った。
「見つからないワケだ……」
「え…?な、なんで…?」
晋作さんがじっと前を見つめている。
「……これは、神社……オレが探そうとしていたのは、寺だったからな……」
「あ…それって、違うの?」(こらーーーッ(泣)そんな常識レベルで間違わないでよッ!)
「ああ……違う」
ガーン!!!!衝撃の事実。じゃあ、私は今まで全くの見当違いをしてたワケだ…?
「そうか…ここが、そうなの、かっ……」
言葉の途中でまた晋作さんが辛そうに咳き込む。とにかく座ってもらおうと、晋作さんの体を支えてゆっくりと階段に座らせる。
そして、落ちる沈黙。
何を言えば良いのか、わからなかった。多分、晋作さんも同じなんだと思う。
今夜は、色々あったから……。
「なぁ…」
急に声をかけられて、わたしは晋作さんがまた苦しいのかと思って身構える。
…イヤ、身構えてもしょうがないけど。
結局そうではなくて、さっきの……晋作さんの演技(?)に合わせられたことを褒められる。
「そういえば、どうして突然あんな……」
「あれは、新撰組の沖田だったんだろう?」
ふっと笑い、晋作さんが続けた。
もしわたしが晋作さんに合わせる事ができず、彼が『高杉晋作』だと知れていたら。わたしが連れて帰れたのは晋作さんの胴体だけだっただろう、と。
それはつまり、晋作さんが殺されてたと、いうことで。
でも、沖田さんはそんなに悪い人には見えなかったのに。
そう言うと、珍しく厳しい口調で晋作さんに制された。
「良い、悪いじゃない」
びっくりしたのと、何を言っていいのかわからなかったことで。わたしはそれ以上何も言えなくなる。
「……すまん」
しばらくして、晋作さんがそう言って「なかなか、調子が戻らん」とちょっとおどけてみせた。そしてそのままわたしの頭をガシガシと乱暴に撫でる。
「まぁ、とにかく。新撰組は京の見廻りの中でも過激な奴らだからな」
幸いにして町の人たちにも嫌われているので、ああいった風に避けても不自然じゃなかった……ということらしい。
なんだか、この世界のことはよくわからないけど。とりあえず今回の一件に関しては『新撰組と高杉さん達は仲が悪い』と覚えておくように、と念を押された。
その後は、沖田さんがわたしを知っていたのは何故なのか、とか。実はわたしは土方さんにも会ったことがある、とか。
そんな話をして。
晋作さんに顔が広いと褒められたり、けれど『倒幕派』の人間(これが多分晋作さんたちのこと…なのよね?)と親交があると知れたらわたしの身の安全も危うい。とも教えてもらった。
いつになくきつい眼差しで話す晋作さんが真剣で。
だから、わたしも新撰組の人たちには気をつけることを晋作さんと約束する。そうすると、
「よし!素直で偉いぞ!」
と、またガシガシ撫でられた。
「もう!またそうやって子供扱いする!」
「ははは、ほら、むくれるな!」
もう……。
でも、結構元気になってきたかな…?そう思えて、ほっとする。
さっきは本当にどうなることかと思ったけど。
……そういえば。
「ろうがい、って何?」
「っ!」
わたしが口にした途端、晋作さんが気まずそうな顔をして視線をそらしてしまう。
「…聞きたいか?」
「…え、…えっと……」
聞きたいか聞きたくないかと言われれば、聞きたい。
でも、晋作さんが言いたくないことを無理に聞くのも……気が引けるような。
「教えてやらなくもない……ただし。お前がオレと夫婦になると約束をしたら、だ!」
「え!?夫婦っ!?」
突然の言葉にアタフタしてしまう。
一体何がどうなるとそうなってしまうのか?今だって付き合っているとは程遠い関係だと思うし、そんな……仲じゃ、ないと思う。のに。
「こんな時に、ふざけないで下さい」
「ふざけていない」
晋作さんは間髪いれずに答え、真っ直ぐにわたしを見る。
「オレはお前が好きだ。そう望んだとしても不思議ではないだろう?」
「ふっ、ふしぎっ!不思議だよ!!!」
出会って数日、まだ良く知らない相手同士で、しかも晋作さんの言葉が事実だとすればわたしは未来の人間で、晋作さんは過去の……歴史の中の人だ。
いろんなイミで隔たりがあるだろうし、その溝が埋められるほどの…何かがあるわけじゃない、と思う。……少なくとも、今は、まだ。
「ほら、そんなに興奮するな」
「興奮なんてしてないから!」
精一杯強がると、晋作さんがわたしに手を差しのべた。
「ははは、本当に可愛い奴だ!ほら、藩邸に帰るぞ?」
冷えたその手を、差し延べられたのよりももっと静かに握り返す。
晋作さんの手。わたしより大きくて、ごつごつしてて。包み込んでくれる、手。
ずっと、こうしていたいな……。
そう思いながら、繋いだ手をきゅっと握ると。晋作さんも握り返してくれる。
わたし達は、そうして手を繋いだまま藩邸への帰路についた。
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ハイ、第七話でしたっ!!!
ん~~~。どうも選択肢を選んでる感じだと、そろそろ晋作さんに傾いてきているような返答を返すほうがウケる予感ですね…(どんな感想だ)
今回の2個目の選択は、多分『考えてみます(だっけ?)』そんな感じの返答のが良かったんではないかな、と。悔やんでおります(笑)
まぁ、でもあれで「ふざけてない」からのとうとうと語られる感じは凄く好きだったんで良かったですけど(笑)
ちょっと……主人公がイタすぎることだけは勘弁だなぁ…と思いますけど(苦笑)まぁ、しょうがないですよねぇ…。この主人公ちゃんが『歴女』だったり秀才だったりした日にゃ好みの人に付いて、歴史を変えちゃいますよねぇ…(怖)
しかしイタイ……。新撰組知らないのは、ナイわぁ……(爆)労咳だってわかるでしょ???
書き起こしてる一人称がまたその『わたし』視点だからほんと凹みますよね(笑)
晋作視点の時のが、三人称で語れるんで楽チンです(主人公拒否!?)
ま、読んでる側にも余計な情報を与えない為には、お馬鹿な主人公視点がやりやすくはあるでしょう。(だから、なんて感想だ…(泣))
思ったより簡単に二度目の災難が解決されてがっかり。
かんざしのエピソードはここで使わないのか、でがっかり。。(どうしよう。元の世界に戻る時に思い出として渡されたら(苦笑)泣くかも(ベタベタ))
そして何より。
せっかく寺…もとい神社、見つかったんですけどな展開にガッカリ。(笑)
龍でも召喚しろ。8人くらい仲間見つけて(メイン攻略キャラ、9人なのに!爆)
今日の選択肢
しがみついて止める(立ち絵なし)
ふざけないで
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